中島聡『おもてなしの経営学』(アスキー新書)について
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おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書 55)
著者:中島 聡 |
先日、海部美知『パラダイス鎖国』の書評を書いたので、先月の八重洲ブックセンターでの対談のもう一人の主である中島氏の本書を読んでみた。
いきなり書評を書こうとも思ったのだが、それよりもAmazonでのレビューがこの点で厳しいことが多く書かれているので、それをダシにして感想を書いてみたい。
(1)「著者のblogを愛読しているので、期待していたが、雑誌の記事の採録や対談の記録で、資源の再利用を見ている感じ。[星3つ]
(2) ブログを日ごろから読んでいたので予約までして楽しみにしていた本だが、271ページの本書の123ページ以降、すなわち半分以上のページ、が特別対談で占められているというなんとも期待を裏切られる作品。第一章「おもてなしの経営学」は、ほぼブログと同じ程度の情報量しかない。 [星1つ]
たしかに、気持ちは分からなくはないが、先月の対談でも中島氏本人が「海部さんの本ほど論理立ててまとめられていない」「書くのに苦労して、プログで書いたことと対談を入れてなんとか一冊の本になった」という趣旨のことを既に言われたので、読後に違和感や失望はなかった。
上の2つの意見には、アマゾンレビューでも投票が多い(しかも「参考になった」とするものが多数)のだが、これら2つの意見は、はっきりに言うと、blogを普段から読んでいる人が勝手な期待をしてそれが裏切られただけのことにすぎない。世の中には中島氏のブログLife is beautifulを読んでいない人はたくさんいるのだ。だからこそ本を出したということもあるだろう。世の中には対談だけを収めた本も数多くある。本書に対する正当な評価とはいえないだろう。
(2)(続き)経営にはおもてなしが重要という主張に対して、同意・反対できるだけの論理が展開されていないため、本として出版するレベルにまで昇華されてないように感じられた。ブログでは、その程度の内容でエントリーしてもいいだろうが、本として出版する以上、もうすこし踏み込んだ考察がほしかった。
(3) 同じようなことを見方を変えて書いていたりするのでときどき「あれ?前のページでも同じことを言っていたような」という気分になります。[星3つ]
これらの指摘には同意。ただ、これは先にも述べたように、書いた本人がよく分かっていること。むしろ、この問題は、編集者に責任がある。中島氏はブログは書いているけれどもプロの書き手とは言い難いのだから、編集者がもう少し時間をかけてきちんとサポートしてあげるべきだろう。アスキーの早く出版したい(しかも海部氏の『パラダイス鎖国』と合わせて)との意向が透けて見えるような気がする。
では、私はどう思ったかというと、上記の欠点はあるとはいえ、素直に面白いと思った。実は中島氏のことを失礼ながらそれほどよく知っていたわけではなく(ブログも去年の中ごろから読み始めたばかり)、本書を読んで、日本人にも、こうした人材がいたのかと今頃になって感心した。彼のブログはギークたちがよく読んでいるらしいが、分かるような気がする
確かに、本書では中島氏の言いたいことが整理されておらず、特に第2章はタイトルが「ITビジネス蘊蓄」(!)というふざけたものになっていることから分かるとおり、ただ彼の過去のブログのエントリーを並べただけなので、分かりにくい。むしろ、第3章の対談(特に古川亨氏との対談、梅田氏との対談)を読むと、彼が考えていることがよく分かるように思う(ひろゆきとの対談は、むしろひろゆきの方が主役という感じ)。対談という形式が、対談相手とのインタラクションの中で彼の言いたいことを分かるように引き出しているように思う。
もちろん、彼のいう「ユーザー・エクスペリエンス」=「おもてなし」の重要性にはうなずけるところが多い(1)(もっとも、私は、この言葉よりも、それと対比される「床屋の満足」というフレーズが気に入ってしまったが(2))。中島氏の「おもてなし」は、ものづくり寄席で聞いた阿部誠教授の話にもつながると思った。
(1) ただ、日本のシステム構築は、ユーザのニーズに合わせてカスタマイズしすぎることが逆に問題になっているようだから、「おもてなし」も時と場合によるということはいえるのかもしれない
(2) 既存の言葉で置き換えると、それぞれ「マーケット・イン」、それに対比される「プロダクト・アウト」といったところだろう。)
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