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(続)「Jシリコンバレー特区」構想について

 

 

先日の"「Jシリコンバレー特区」構想について"というエントリーに対して、    
>じゃ、どうしたらいいかな?    
とのコメントをいただいた。

 

この問いに対しては以下の3つの可能性を考えた。   
(1)上で指摘した問題点に対応するために具体的に何をすればよいのか、という方法論に関する質問    
(2)Jシリコンバレー特区の設置は前提としつつ、どう修正すればよいのか。    
(3)Jシリコンバレー特区の設置は前提とせず、何をすればよいのか。

 

その後にさらにいただいたコメントを読む限り、1を求められているようではないが、2なのか3なのかよく分からないので両方について書きたい。

 

何はともあれ、将来の日本を考えて興味深い構想を真面目に提案してくれるのは良いことである。この点で、分裂君の元のエントリーは評価している。ただ、構想を思いつく以上に、それを磨いていくことは重要なことである。問題点があれば建設的にそれを指摘することは、更に良い構想に育てていくために有益だと考える。先日のエントリーはそのような趣旨で書いたものである。「批判だけなら誰でもできる」というが、建設的な批判は必ずしも誰でもできるとは限らない。もちろん、先日のエントリーがどれほど建設的で有益だったといえるかどうか自信はないけれども。

 

そうした趣旨なので、まずはできるだけJシリコンバレー特区構想を生かす形での修正を考えてみる。実は、この構想の目的を税収確保と書いているが、税金は社会として厚生を高める手段を講ずるために必要なのであって、税収自体を目的とするのは本末転倒ではないかと思われる。むしろ、「世界的ベンチャー企業をどんどん生み出してもらう」というような文章もあるので、イノベーションベース型経済を日本国内に生み、これを通じて経済的な豊かさを導くとことと考えるほうがよい。いずれにせよ、特区の狙いは、そのために高度な能力を持った人材が集まった知識クラスターを生成し、それを梃子に日本国内全体の経済活動に結びつける(ちなみに、これに伴い税収も上がる)、といったところであろう。

 

しかし、このような高度な人材が集まってくる最も大きな理由は、まさに触発されるような高度な人材がそこに大勢いて、そこにイノベーション文化があることなのではないだろうか。(前回も同趣旨を書いたつもりであるが)分裂君の構想は、要するに高度な能力をもった人材にとって住みやすい物的あるいは金銭的な環境を整備することが中心に語られているが、これは人材が集まる必要条件でありえても十分条件ではない。しかもこうした環境面は他の国もおそらくは容易に用意できるものだ。

 

したがって、発想としてはむしろ逆に、まずは、高度な人材にとって非常に興味がわき、彼らが集まって協働したり、情報や意見を交換し合ったりするようなプロジェクトが先に必要ではないだろうか(分裂君は「Jシリコンバレー大学を設立して世界中の優秀な教授や大学講師をヘッドハントしてきて集める」「英語圏の一流大学の分校をこの特区に誘致する」などと書いてあるが、それをどうやって実現するかことが大問題であるはずである。簡単にホイホイと日本に来てくれると思わないほうがよい)。そうした世界から人が集まるようなプロジェクトとして、まず日本こそがその場所として相応しいようなものを核にしていくことが考える順番として先であるはずである。そして更に日本における経済活動全体にどのようにつなげていくかのリンク等を考えていくべきである。

 

残念ながら、そうようなプロジェクトとしてどのようなものが考えられるのか、私にはわからない。Jシリコンバレー構想を推進する場合、この点を構想の提案者がよく検討してみるべきだと思う。

 

ただ、このような特区が上手くいく可能性は否定しないものの、この特区構想を私個人としては買わない。それは、こうしたプロジェクトについては、政府すら確信をもってこれが成功すると断言できないはずだからである。どのような開発プロジェクトであっても人間が先験的に成否を判断することはできない、ということもあるし、政府と民間の間の情報の非対称性(政府の失敗の一つとしての)もある。本家シリコンバレーが成功したのも、政府の計画によってではなく、自生的に人々が集まったからであろう。上で述べたように環境整備を先に考えずにプロジェクトを核に考えて構想を進めたとしても、巨額の税金等の投資が必要と考えられる本特区構想が成功する保証はない。すなわち、大きな損失を被る可能性は大きいのである(そのような先例もある)。政府において責任のある立場の人間であれば、この構想を進めることはギャンブルであり、消極的に対応すべきことであると思う。

 

むしろ、もし投資をするのであれば、別のもの、例えば、日本人の人的資本に投資するのが一つのとるべき方法であると思う。その一つとしては日本人の語学能力工場があると思う。世界の高度な人材と交流する上で、日本人の語学能力の低さは知識の吸収等の面で大きな障害になっているように思われる。このことは日本の生産性にも影響しうる。こうした点に投資してもよいのではないか。

 

 

 

(追記) ここまで書いたところで、bewaad氏が分裂君のエントリーに対してコメントをしていること(「日本はレッドオーシャンに浮かぶ島国となるべきか?」)を発見した。私が先日言ったと類似しており、基本的にその趣旨には賛成である(もっとも氏の方のエントリーの方が先であった)。ただし、結論として、「まずはデフレを脱却すること」を主張しているのは、ワンパターンであるだけでなく、少々分裂君の問題意識からややずれているようにも思われた。デフレ脱却の重要性については、私もサイトのバナーから分かるとおり異論はない。しかし、ここでの分裂君の構想は、「目標として、50年かけて世界中から1000万人の高度知識労働者をこの都市に集めることを狙う。彼らに、世界的ベンチャー企業をどんどん生みだしてもらう。」と書いてあるように、長期的なものであり生産性をあげるためのもののように思われる。デフレ脱却という当面の課題(もちろん継続的にも必要だが)とは多少視点が異なっているのではないか。

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