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「Jシリコンバレー特区」構想について

シリコンバレーをはるかに超える、世界一のイノベーション都市を、日本に作る方法 - 分裂勘違い君劇場

   
   

東京から直通電車で20~30分くらいのところに、経済特区を作る。仮にJシリコンバレー特区と呼ぶことにする。

    

この特区では、英語が公用語。役所、医療施設、学校、レストラン、スーパー、電車、交通標識など、あらゆるものが英語で運用される。この特区内の企業に年収500万円以上で採用された外国人には、この特区内だけで働けるワーキングビザが発行される。当面は、インド、中国、西欧、北米、旧共産圏などの高度知識労働者をこの都市に集めることを目指す。目標として、50年かけて世界中から1000万人の高度知識労働者をこの都市に集めることを狙う。彼らに、世界的ベンチャー企業をどんどん生みだしてもらう。・・・・

   

読んだ第一印象は、「いかにも、政治家や官僚やタレント系の学者、コンサルタントなどが考えそうなこと」というもの。シリコンバレーにならって、クラスターを作ろうという構想はこれまでもたくさんあったが、実際に上手くいったものはあまりないのが実状。このJシリコンバレー特区構想は、規模的にもより大きく、海外によりオープンにするなど、大胆なものとなっているのだが、発想としては、そういったものの延長線上にある、「ハコモノ」中心、受け入れ側の視点中心の思いつきに思え、これだけでは、あまり上手くいきそうにないなあ、という感じがする。決してネガティブに捉えたくはないだが、ちょっと考えただけでもいくつか課題が思い浮かんでしまう。

   

第一に、受け入れる日本側の都合ばかりで考えられていて、海外から来る人々にとってのこのJシリコンバレー地区で活動しようというインセンティブが乏しいのではないか、という点である。確かに、英語とか、交流スペースとか、税制とか、インフラとか、安全とか、生活支援サービスとか、あったらいいものばかりであるが、しかし、それらがあるからといって、高度知識労働者がわざわざ日本に来たいと思うだろうか。どこの国、どこの地域でも、高度知識労働者は集めたいはずで、そうした国や地域との獲得競争になって勝てる勝算が十分にあるのかどうか。EUだって、韓国だって、中国だって、インドだって、全力で取り組んでくる可能性も考えないといけないし、現在において、言葉や市場規模、外資・外国人受け入れ環境等、日本はスタートラインとして不利な立場にある。そもそも今あるシリコンバレーよりも日本のJシリコンパレーが魅力的にみえるほど強烈な誘因は何かあるのだろうか。カネや環境ばかりが問題じゃないだろうし。東京や日本の優良顧客って他地域と比較してそんなに魅力的なものなのだろうか。

   

第二に、第一の点とも関連するが、書かれているような「ハコモノ」(かならずしも物理的なハコモノとは限らないが、目に見えやすいもの、という意味)だけでなく、海外からきた「上客」を満足させるだけの、運営のノウハウ、技術が不可欠である。しかし、そうしたものが日本にあるのか、またそうしたものを短期間で整備できるのか、正直疑問。

   

第三は、ヒト、モノ、カネ、土地。どれくらいの規模のものを想定しているのか分からないが、もし本格的に意味のあるものを現実のものとするのには、大変なカネがかかるし、また日本にいる英語+αのできる人材、土地を相当に集めて投入しないといけないと思う。これには大変な費用がかかるのではないか。東京から20-30分程度の場所だと、たくさんの住民を立ち退かせないといけないかもしれない。また、こうした直接的な費用だけでなく、文化的摩擦など、海外からの人間が流入することによる様々な間接的なコストもある。

   

第四に、これら費用を正当化するだけの便益が本当にあるのか。書かれていないのでよくわからない。

   

第五に、こんなに費用もかかる構想について、おそらく直接裨益しない大多数の日本国民を説得できるのかどうか。

   

全体として言えば、こうした発想を提示するのは良いことだと思うけれども、書かれたものだけを見れば、まだ、受け入れる側のバラ色の構想(というか願望)ばかりが前面に出ている段階にみえる。冷徹に損得勘定した結果として出てきたわけではないだろう。まあ、私もあまり欠点ばかりあげつらうのは好きではないし、これを書いた御本人もこうした欠点はあることは先刻承知の上でひとまずの構想を書いて出してみたのだろうから、ひとまずここは課題の指摘ということで、続編を期待。成功のためには、想像力とともに、人々のインセンティブ等を考えた精巧なソシャル・デザイン、メカニズム・デザインが非常に重要だと思う。

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コメント

じゃ、どうしたらいいかな?

投稿: | 2008年3月21日 (金) 14時02分

趣旨がいまひとつはっきりしませんが、その御質問で何を求めているかによって回答の内容は変わってくると思います。

投稿: enka | 2008年3月23日 (日) 02時26分

上記の記事では欠点を指摘するばかりで、自分ならどうするとか、具体的にはこうすべき、というのが提示されていないから「じゃ、どうしたらいいかな?」なんじゃないですかね。

批判だけなら誰でもできるわけだし。

投稿: | 2008年3月23日 (日) 22時36分

時間がないので、近く改めて書くつもりですが、Jシリコンバレー地区を前提とするならば、人のつながりをどうつくるかがキーなのでは。ただ、本家もそうでしょうが、人々が自然に集まり自生的発展を遂げているから上手くいっているところがあって、人工的空間には成功の可能性だけでなく失敗のリスクも大きいと覚悟すべきでしょう。むしろそれだけの投資をするのであれば、例えば日本全体として外国語能力向上等に使った方が有効のように思います。

投稿: enka | 2008年3月25日 (火) 08時46分

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