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Financial Times: One-Way Street?を読んで

別に意図したわけではないが、一昨日に続き、英国の記事から。今回はFinancial Timesの"One-way street?: As its companies expand abroad, Japan erects new barriers at home" と題された3月2日付の解説記事である。

 

実は、一昨日(3月5日)の外務省報道官の会見録をネットで見ると、次のようなことが書いてある。

 
   

(報道官)3日付の英字紙フィナンシャル・タイムズ紙に、あたかも日本が外国人投資家或いは外国投資を制限するような、忌避するような対応をとっているといった批判記事が掲載されました。皆様の中にも御覧になった方はおられると思います。ここにお持ちしましたけれども、非常にセンセーショナルな、日の丸を進入禁止のマークに準えて、かつ日本は新たな障壁を構築するという、非常にミスリーディングな見出しだと思います。日本政府として、やはり反論をしたいということで、この場で政府の考えを申し述べたいと思います。      
勿論、まずこの見出しが、全く日本の直接投資受け入れに対するオープンな姿勢を正確に伝えるものではないということを指摘したいと思います。また、この記事の中で、日本政府或いは日本全体の取組みを正当に報じていないということからも、極めてバランスを失した内容だと思っております。      
そう申し上げた上で、日本政府としては福田総理の強いリーダーシップの下、我が国の経済成長実現の為、対日投資などの市場開放努力を進めており、先般のダボス会議においても福田総理から対日投資を歓迎する旨のメッセージを発出したところです。政府は引き続き現在の対日直接投資倍増計画の達成、即ち 2006年の対日直接投資GDP比を2010年までに倍増させ、2010年には5%程度を達成するという目標を立てております。その為にも、対日投資促進の為に策定したプログラムを政府一丸となって着実に実施し、我が国の投資環境の一層の改善を進めていく考えです。      
この場で私は、日本政府がそうした投資環境の一層の改善、対日投資の更なる増加ということに対して明確なコミットメントを表明しているということを強調させて頂きたいと思います。

   

(問)フィナンシャル・タイムズに対して、直接的に何か申し入れたりはしないのですか。

   

(報道官)反論投稿することについても、ひとつのオプションとして念頭に置きつつ、現在検討中です。

 

ここで、外務報道官が言っている、「非常にセンセーショナルな、日の丸を進入禁止のマークに準えて、かつ日本は新たな障壁を構築するという、非常にミスリーディングな見出し」というのは、このFTの記事の冒頭にある、日の丸の中に、NO ENTRYと書かれた絵である。報道官(あるいは外務省首脳)の癇に障るのも無理はないと思うものの、むしろ、この図を描いたFTの(ブラック)ユーモアのセンスの方を感じる。

 

それはともかく、FTの記事はどのような内容かというと、簡単だが、次のようなものである。

 
   

・海外からの投資を阻害するような一連の動きのあとでの、北畑経産省事務次官の発言(注:「デイトレーダは浮気者、無責任、強欲」といった最近問題となった講演での発言)は、日本は海外投資を歓迎していないのではないかという疑念を強めた。

   

・日本は、しばしば保護主義と非難される(鎖国時代からの歴史を叙述)。しかし、東証上場企業の持分の28%が海外勢になった今、政治家、官僚、産業界の”鉄のトライアングル”は再び外資から日本を守ろうと決意したようにも見える。

   

・政府では、空港管理会社への外資規制設定の試み、外資による10%超の出資の届出義務を拡大(外為法)、Jパワー(電源開発)へのTCI出資比率増加の拒否の可能性など。

   

・企業でも、多くの企業がポイズンピルなど企業防衛策、株式持合いの増加、新日鉄のミタルへの防衛策など。

   

・これらは、日本への海外からの直接投資の比率を倍増しようとする政府の約束とは整合しない。

   

・確かに、以前に比べると外資は入っているし、実際、最も競争力のある日本企業の中で外資の比率は多い企業がある。しかし、日本では経営陣が会社にとって何がよいかを一番知っており、株主のいうことを聞くのは誤りという見方が強い残っている、とワカスギ氏はいう。

   

・最近、懸念・恐怖を引き起こしているのは、外国ファンド(たとえばスティールパートナーズやSWF)の登場。これらによる買収が恐れられている。三角合併の制度はできたが、ビジネスのエスタブリッシュメントのロビイングの後、これを使うのは難しくなった。

   

・官僚もビジネスリーダーも、公式には保護主義の増長を強く否定する。確かに、外国嫌いではないかもしれないが、外国人投資家や市場の力へのバックラッシュを反映したものであることは明らかである。

   

・もちろん、これらの動きに対する国内からの強い反対も存在する。しかし、今は、外資へのより大きな開放や市場資本主義の規律による成長よりも、古いシステムの安定に傾いているように見える。

   

・25年間日本で働いた経験を持つある米国政府の元職員は、「危険なのは、そのような偏狭さが成長に必要な日本の競争力を脅かすこと。多くの日本人は外界と隔絶して過ごしやすい温室にひきこもることのできた時代を求めているようだ。しかし、温室にも、日光と空気は必要だーたとえそれが国際競争の厳しい風を意味することになろうとも」

   

・過去、外国製品に市場を閉ざした事例(1980年代の牛肉輸入、欧州からのスキー輸入)があったが、その後市場を開放してきた。しかし、それでも日本市場は、貿易障壁によってではなく、諸外国と異なった基準があることによって、依然として外国製品にとって参入が難しい市場のままである。

 

このFTの記事には、確かに、ある種のバイアスがある。ライブドアや村上ファンドという国内のファンドへ多くの経営者たちが警戒したことに見られるように、多くの日本の経営者がおそれているのは、外国の資本だけでなく、国内の資本も含めたアウトサイダー、典型的には投資家に物をいうアクティブなファンドが資本市場を通じて経営に口を出すことであると思われる(問題となった北畑次官の発言もその一つ)。その意味で、「日本は外資嫌い」という問題の設定の仕方は、海外の読者の先入観に媚びているよいうに思われる。

 

しかし、それでも、これらファンドの主体は海外投資家であるし、また三角合併に関する消極的な姿勢を見ると、日本の産業界に外資への警戒が根強く残っていることは多かれ少なかれ間違いないように思う。

 

冒頭に掲げた外務省報道官の記事への反論(日本は海外投資にオープンであり、これを倍増しようとしている)がまったく十分な反論になっていないことは、FTの記事が、すでに政府が公にはそのような反論をしていることを既に盛り込んでいることして明らかである。

 

外務省は、おそらくは対外広報の観点から、そのまま放置しておくのはまずいと考えて、(少なくとも形式だけでも)反論しておく必要があると考えたのだと思う。実際、政府が海外投資の比率を倍増させようとしているのだから、海外投資に消極的だというイメージを海外に与えることはマイナスであり、それを打ち消す努力は示す必要がある。それは理解できる。

 

しかしながら、政府が実際に海外投資の比率を倍増させようと努力しているとしても、問題は、そうした総論的な取り組みの一方で、具体的に利害が直接に絡む各論(三角合併、空港運営会社の例を見よ)になると産業界、政界、官界に外資への警戒が現われることである(いわば、「総論賛成、各論反対」である)。それがこのFTの記事の言いたいことであるはずである。である以上、外務省報道官の反論は有効な反論になりえない。

 

日本のマクロ経済の大きな問題の一つとなっているのは、生産性の低さである(諸外国と比べて非常に低い現状)。生産性が低いということは、持てる資源を生産のために効率的に利用できていないということである。このことは、たとえば企業の利益率の低さにあらわれているし、サービス残業等に見られる過剰労働からも分かることである。日本のIT関係企業はその良い例であろう(参考)。昨日三菱電機が発表したように、過剰と言われた国内携帯電話事業メーカの中から、撤退がようやく起こりはじめていいるが、これが今頃になって行われ始めたところに問題の深刻さがある。こうなった一因に、コーポレートガバナンスが十分に働いていないことがあると考えるのは当然である。

 

この点で、海外をはじめとする外部の資本の力を借りるということは有効な手段の一つであろう(それは政府も海外からの投資受け入れを積極的に進めるべきだと言っている一つの要因であるはずである)。CNETに「海外機関投資家からみた日本企業のコーポレートガバナンス」という記事がのっているが、この点で、ここにあるような海外の機関投資家が日本についてどうおもっているかという見解は無視すべきではない。まずは、直接に利害に関係する産業界の抵抗感をどうするかであると思われる。ただ、長年の慣行を変えるものであるし、企業内で長年働いてきた経営者や管理職等にとっては自分の地位を危うくするものであり、なかなかすぐにこの抵抗感を解消はできないだろう。深刻な問題である。

 

その意味でいうと、(直接自分の利害に関係する程度は小さく)制度を決める地位にある政治家及び官僚の行動も重要である。直接投資倍増のための政府の取り組みはぜひ進めていただきたいが、しかし、一方で不安材料は、FTの記事にあるように事欠かない。昨日の日経新聞の「経済教室」でも、全国社外取締役ネットワーク代表理事の田村達也氏が、経済産業省を中心として行われた政府での買収防止策の指針の策定作業を行った「企業価値研究会」のメンバーが経営者的な立場の人間が中心となって構成される一方で、機関投資家(株主)を代表する人間が含まれていなかった、と政府の経営者ベッタリの姿勢を批判していた。こうした、現在の企業経営者に偏った(あるいは「媚びた」)、これまでの政府(政界、官界)の姿勢(消費者行政の観点からも批判されているが)は、大いに改める必要があろう。少なくとも、外資受け入れについて、外務省報道官が言っているようには、十分な努力がおこなわれていると言いがたいところがあるように思う。

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