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書評:「こんなに使える経済学-肥満から出世まで」(大竹文雄編)

こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書 701) こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書 701)

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「経済学の本質的な面白さは、社会の仕組みを考えることで、どうしたら人々が豊かになるかを考えることだ」(p17)

      

「そのような仕組みを考える上で一番有効な方法が経済学的な思考方法なのである」(p12)。

   

「経済学を学ぶときに最も重要なことは、人は幸福になろうというインセンティブをもって行動していることを理解することである。そのような人々のインセンティブを無視して制度や組織を作ると失敗するということである。命令したり、規制さえすれば必ずそのとおりに人々が行動するという前提で制度を作ると、うまくいかない。最悪の場合は、規制の意図とはまったく逆のことが発生してしまう」(p11)

  経済学の本質は、個々人のインセンティブにより経済現象、社会現象をとらえるようとすることにある。しかし、今の日本では、残念ながら経済学は役に立たないと思いこんでいる人々は相変わらず少なからずいるし、実際に経済学の知見を使って制度設計が行われる例もまだ少ない。 

これに対して、本書は、狭い意味での経済問題にとどまらず広く身近な社会経済に関する27の事例について、個人のインセンティブ(プラス情報の非対称性やいわゆる行動経済学の成果等)を使って説明できることを示すことによって、経済学が有用であるを示した好著である。近年、同じような趣旨の本もいくつか出版されているので、その点で本書が画期的であるとは言えないが、現在の日本において身近に実感できる経済社会現象を多数取り上げており、経済学の有用性に理解が不足していた人々ばかりでなく、経済学に通じた読者にも馴染みやすく、かつ十分楽しめるものになっている。

 

内容については、別のところで発表済のものも多く、既に経済学に通じている人々にとって目新しいものばかりではないが、それでも刺激的なものが多い。人によって興味が起きるパートは異なるだろうが、個人的には、例えば、なぜ一部の人だけが肥満となるか、なぜある人たちは喫煙等に中毒になるのかといった健康問題のほか、教育の義務化が長期的な人口増加から人口減少への転換(少子化)の背景にあること、人々の生まれ月は制度に適用しようとする親たちのインセンティブによって影響されていること、日米を比較すると、日本人の方が公共財の提供において「いじわる」であり、相続においても「利己的」であることなど、意表を突いた議論が楽しめる。

 

納得するには説明が不十分と思える箇所も少なからずあった(元は週刊エコノミスト誌の連載であり各事例6ページしか紙幅がない)ので、個人的にはもう少し詳しい内容を知るための参考URLや文献リスト等も欲しいところであったが、本書の目的は「経済学への招待」であり、それは無いものねだりなのであろう。

 

一つだけ難点をいうと、各執筆者がそれぞれのテーマについて書いた短い文章の間を関連つけずに掲載しているため、内容的に連続感が欠けているため、本を一気に読む際に少々読み辛くなっていることであるた。週刊誌の連載を集めたものであり、各執筆者が別々のテーマに取り組んでいるので、やむを得ないとの事情は理解できるが、一般の人に経済学に興味をもってもらうための新書としてまとめるのであれば、材料は良いのだから、もう少し各パートの連続性をもたせて読みやすく工夫があっても良かったのではないかと思う。本書の読者は、まず自分の興味のあるテーマのところを拾い読みしてもよいだろう。

 

いずれにせよ、編者の大竹先生が本書で繰り返しているとおり、政策立案や制度設計において人々のインセンティブを無視してはいけないという点は重要である。今の日本ではこれを無視した制度設計が依然として多い。その現状に対して、経済学から一石を投じ、より良い社会作りが行われるように人々を啓蒙すること、これが本書の隠れた狙いなのだと勝手ながら想像している。

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