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書評:「NTTの自縛」(宗像誠之著)

                              
NTTの自縛 知られざるNGN構想の裏側NTTの自縛 知られざるNGN構想の裏側         

著者:宗像 誠之          
販売元:日経BP社            
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昨日、書店の店頭でたまたま見つけて買ったのだが、かつて電話をオペレートする公社だったNTTという組織の宿痾を明らかにした非常に興味深い本である。本書の要旨は次のとおりである。 

 
       
  • 昨年5月にNTT東日本のフレッツ網で起こった大規模なネットワーク障害が起こった。この障害について、同社は「ルーターのソフトウェアのバグ」が原因であるとするが、本質的な問題は別のところある。それは、NTTの技術陣の組織体系が、IPの時代である現在になっても、依然として電電公社時代に培われた電話の時代の価値観(電話的価値観)によって縛られていることである。つまり、今もこの電話的価値観を行動規範としている「施設屋」と呼ばれるグループ -- 電電公社時代から設備投資のための巨額の予算と技術系の人事権を握っている、純粋の意味で技術者といえない人脈に連なる人々 -- がNTTの技術陣を公社時代から変わらず牛耳っており、収益を生み出すはずの事業開発、サービス開発に携わる技術者は傍流に追いやられている。IP技術を理解しない「設備屋」が占める幹部陣は、NGN構築ばかりに目がいって、フレッツ網の改変に必要な予算をつけなかった、このことが昨年の障害が起きたことの原因の一つになっているのである。    
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  • このような設備屋が技術陣の実権を握る組織体制が、(IP技術である!)NGNを主導しているが、ここにも大きな問題がある。NGNは世界の通信事業者が構築しようとしているが、持ち株会社主導でをあげて大々的に取り組むNTTのNGNは、和田社長(当時)が当初画期的な新しいネットワークだと強調してきたものの、商用サービスを前にふたを開けてみると、現行フレッツ網の後継にすぎず、中身はからっぽに近いものであることが明らかになった。高機能なインフラを作れば使われる、という電話時代からの感覚がNTTに残り、ユーザの利便性を無視しており、自社の都合ばかりが色濃く反映されているのである。    
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  • そうしたNTTが守ろうとしているものは、株主でもユーザでもなく、自分たちの組織体制であり、これは、電話が独占であった電電公社時代から連綿と受け継がれてきたものだ。NTTがしばしば打ち上げる大きなビジョンや構想も、組織に一体感を出すというNTTの都合によるものであり、実を結んだものは少ない。    
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  • NGNもそのひとつであって、NTTにとって交換機に置き換わる新しいIPネットワークや光ファイバが必要ということのほか、グループをまとめるために利用する意図があった、と社内で公然とささやかれている。NGNはこのような自社の都合で考えた構想であるため、中身がないまま進められた。結局、現行の設計には電話が重視されすぎている等の問題があり、このまま予定通りのスケジュールでNGNをスタートさせるとトラブルが起こる可能性が高い、という声がNTT内部(特に現場)で多く聞かれる、という。しかし、持ち株会社は、「サービスを公約通り開始することが大事」と内輪の都合で進めており、サービスを遅らせる気配はない。    
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  • 経営的にもNTTには厳しさが増している現在、電話的価値観・内向きの姿勢からの脱却し、自ら改革しようとすることが重要ではないか。
   

本書に書かれている事柄は、NTTという会社とつきあい、あるいはNTTをウォッチしてきた人々にはよく理解できるものではないだろうか。NTTの独占的体質がしばしば問題となるが、現行体制維持を優先する官僚的行動原理にこそ、その源泉があるのではないかと思う。そうしたNTT内部の姿を中心に描いており、非常に面白かった。

   

NTTを扱った近年の本に町田徹『巨大独占』があるが、町田本が市場や政府との関係など外部との関わりを中心に書かれていたのに比べ、本書は、NTT内部の組織の論理、そしてそれが生み出す問題を明らかにしており、より構造的な問題に触れている。こういった組織内の問題ははっきりと見えるものではないため、著者の解釈に委ねられている記述は多くならざるをえないし、また書けなかった部分も多いと思うが、それでもNTTは特殊法人であり人々の生活や企業活動等に大きな影響を与えている企業だけに、この問題を広く一般の読者に明らかにした点は大きな意義がある。

   

しかし、このような相変わらずの体制が民営化後20年以上経た今でも継続しているというのは、それだけNTTという会社の経営が何はともあれ安泰であったことの証拠である。市場では競争が進み、ライバルが力をつけたのは間違いないものの、それでも市場でのNTTのプレゼンスは今でも圧倒的である。それが変わらない現状で、本書が言う自己変革はなかなか期待できないと考えざるを得ない。まさに改革が促されるよう一石を投ずるため、本書は書かれたのではないか、とも思われる。いずれにせよ、2010年の組織見直しを2年後に控えた今、その論議を進めるのにふさわしい書であることは間違いないと思う。

   

なお、本書は、『知られざる通信戦争』等、一連の日経コミュニケーション編の通信市場のドキュメント本に続くものと思われるが、これまでのものとは異なり、宗像氏の単著となっている(日経コミュニケーションは監修という立場)。

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