昨夕のことだが、「ものづくり寄席」(@丸の内)にて上記タイトルの話を聞いた。話者(”師匠”)は阿部誠東京大学大学院経済学研究科教授。マーケティングの先生である。満席で、立ち見がでるほどの盛況であった。
話の概要は以下のとおり。
1 ものづくりをあきらめたアメリカ
「アメリカンドリーム」とは最小のインプットで最大のアウトプットを合理的に賢く追及すること。(リターンの少ないことは自分でやらずに外注)。
→ アメリカはものづくりができないのではなく、やりたくない(もちろん、十分なリターンがあればやる)。
2 ものづくりブームの日本
・「ものづくり」が製造業に限られている風潮に危惧。
・日本には国際競争力のあるサービス業がほとんどない。コスト効率が悪い。
3 製造業とサービス業の違い
<モノの問題>
・現場での対応策で解決、対応策を記した詳細なマニュアルを真面目にやる能力が重要、従業員は勝手に自分の判断で行動しない
<ヒトの問題>
・顧客によって異なる反応、問題の予期が難しい、原理原則・概念を示したガイドラインに基づいて従業員一人一人が創造力・自己裁量で対応、正解はひとつでない。
○ サービス業で重要なこと
・マニュアルなしで顧客を大前提とした対応が仕組みができているかどうか。
・「顧客本位」がますます重要に ~ マーケティングそのもの
4 マーケティングのできない日本
・「ものづくり」の拡張が必要
(1)製造業を超えてサービス業へ、(2)現場生産を超えてマーケティングへ
5 マーケティングとは・・・
「買い手売り手のインセンティブが一致するような仕組みを創造すること」
= 買いたいと思う商品を提供すること
(参考) 営業・セールスとは、既存の商品・サービスを売ること
6 現在のマーケティング101
(1) 顧客のマネジメント (2) ブランドのマネジメント
6.1 顧客のマネジメント
~ 利益を生むのは商品でなく顧客。マーケティングは経営の要。顧客から長期的に収益を得ることが重要。
○ カスタマー・エクイティ(顧客資産)のマネジメント
(1) 顧客ライフサイクルの管理
(2) データベースの活用
(3) 顧客価値の数値化
(4) 顧客獲得・維持・追加販売の最適バランス
6.2 ブランドのマネジメント
○ 「ブランド」
ア)顧客の頭の中に存在するもの(ブランド認知、ブランドイメージ)
イ)顧客の行動に存在するもの(ロイヤルテイ、価格プレミアム、クチコミ)
○ ブランド力の測定:よくつかわれるのはインカム・アプローチ
○ インターブランド社によるランキング
上位はほとんどアメリカ企業、ソニー<サムソン
「日本は技術的蓄積があるから大丈夫」という人がいるが、ブランドは重要。簡単にはつくれないが、より多くのリターンが得られる(最小のインプットで最大のアウトプットを合理的に賢く追及するアメリカ企業が先行)。
○ ブランドの事例
(1)ハーレー・ダビッドソン ~ 良い例
(2)光岡自動車 ~ 悪い例
7 背景
(1) カスタマー・エクイティのマネジメントの背景: 情報技術の利用可能性、コミュニケーション手段の低コスト化、洗練された統計モデルの開発、柔軟な実行システムの登場
(2) プランドのマネジメントの背景: 供給過多、成熟した消費社会、消費者行動学・心理学の進展、インターネットの登場
8 どちらのマネジメントが重要か? → 答:ビジネスによる
(1) カスタマー・エクイティの向上に力を入れるべきビジネス
= 顧客と直接取引する、顧客との長期的関係が重要、「個客」データが収集できる。
→ 多くのサービス業やBtoBビジネス(例:金融、保険、通信、運送、医療、コンサルなど)
(2) ブランドの向上に力を入れるべきビジネス
= 顧客との距離がある、第三者が仲介、「個客」データが入手困難
→ 多くの消費財ビジネス
要するに、日本企業に対する、「マーケティング」=「買い手売り手のインセンティブが一致するような仕組みを創造すること」=「カスタマーエクイテイ&ブランドのマネジメント」のすすめである。(厳密に考えると、「日本企業」「アメリカ企業」という言い方にはひっかかるのだが、まあ他に言いようもないので、そこは横に置いておこう)
もちろん、(冒頭に、阿部教授が断っていたとおり)厳密なデータに裏付けられた議論というよりは、「寄席」ということで、同教授が思っていることをラフに述べたものである。だから、ここで述べられた議論がすべて厳密に現実にあてはまるとは言えない(たとえば、自動車産業を見ればわかるとおり、アメリカ企業がみな日本企業よりも「顧客本位」であるとはいえない)。
しかし、阿部教授の議論は、日本企業とアメリカ企業の一面をうまく言い当てていると思う。例えば、日本の電機産業についていつも思うのは、生産者オリエンテッドで、本当に消費者が望んでいる機能を必ずしも提供しているとは言えないことである。ほとんどの消費者が必要としない機能を数多くつけ、頻繁にモデルチェンジをして、比較的高めの価格を設定した商品を売っている。日本の消費者は、比較的お金はもっているし、日本市場は(いろいろあって)日本企業がドミナントなので、日本市場ではこうした売り方である程度成功する。しかし、これが海外に行って全く成功しない。あるいは、iPodやiPhoneのような製品を生み出せない、ということになる。日本にはなぜか「製造業いのち」みたいな風潮が結構あるが、そういうことを言う人は何か世界全体が見えていないように思えてならない(そういったこともあって、『すごい製造業』なる本を評価しなかったのだが)。阿部教授の話は、そうした信仰から抜け出してよりリアリステックな方向性を示していると思った。
ついでながら、マーケティングの2つの要素でいえば、サービス業が特に弱い日本において、今後より必要なのは、カスタマー・エクイティ(顧客資産)のマネジメントのほうであるように思えた。もちろん、日本企業の多くは、この重要性にすでに気付いているかもしれない(そうした意味で、集まった人たちの中には物足りないと思ったひともいたかも)が、「データベースの活用」とか「顧客価値の数値化」とか、特に日本は弱そうな分野だなあ、と思う(余談だが、先日のNHKスペシャル「日本とアメリカ第3回 日本野球は“宝の山”~大リーグ経営革命の秘密~」は、あらゆるものをデータで分析するメジャーリーグの姿を描いており、日本とアメリカの彼我の差をはっきりあらわしたよい番組であった)。
結論として、演題から想像していた内容とはちょっとずれているような気はしたが、内容的には良かったと思う。ちなみに、ネットで探したら、阿部教授は、昨夕の講演と同名のタイトルで、SPSSのサイトに書いている。内容は若干違うが、こちらもおすすめ。
「ものづくり寄席」は、来週が大喜利。もう少し早く知っていればなあ。続編を期待。