参院選挙後雑感(ちょっと遅いけど)
参議院選挙が終了してほぼ十日経った。実は選挙直後にその結果に関する評価を書こうと思っていたのだが、仕事その他あって書けずにいた。その間、さまざまな人がマスコミ、ネット等で選挙結果について評論している。私の述べたいことのほとんどは、その中ですでに述べられているので、改めて加えるまでもない。機会があったら書くかもしれないが、ここでは選挙後の動きを含めた今後についての感想を述べたい。
今回の選挙における自公与党の大敗、民主党の躍進・第一党化という結果は、前回の衆議院選挙(いわゆる郵政解散による与党大勝)と同様に、マスコミ、一般国民等々に大きなインパクトを与えたと思うし、今後当面は与え続けるものと思う。それは単にひとつの議員で野党が過半数を占めたということだけではなく、それがおそらく暫くは続く(少なくとも次の参院選のあるまでの3年間は)、その間に衆議院選挙がおこなわれるため、当面は現与党の政策がそのまま通りにくい状況が続く、場合によっては政権交代がある、といことである。戦後のほとんどの間、自民党が政権党の地位にありその意図が通り続けてきた状況が、当面は、かなり変わらざるをえない、ということである。これは、戦後の日本政治史上においてひとつの意義を画するかもしれない。
そのような選挙結果の影響だけでなく、今回特筆すべきことは、安倍総理が実際に辞任しなかったことであると思う。先日もこのブログで述べたとおり、憲法で内閣総理大臣の指名については衆議院が優位であり、参議院選挙で敗北したからといって総理が辞任する必要はない、というのはひとつの妥当な理屈であり、おかしくはない。また、そのような理屈の上で発言だったのかどうかは知らないが、今回の参議院選挙で与党が敗退しても総理に自民の必要はないという声が、選挙前から与党・内閣関係者から言われていた(もっともそのときの「敗北」といっても、自民党が40強、公明とあわせて50数議席という程度であり、無所属や少数政党を加えれば過半数を維持できる、との見込みのもとでの発言だったのだろう)。
それでも、今回の選挙結果を見ると、本当に安倍総理が辞任しなかったことは、ある意味で驚きであった。今回の与党の敗北は、予想を上回るものであり(といっても選挙終盤の新聞社の予想では自民党40議席割れ、公明苦戦という結果が出ていたが)、どうみても国民の安倍政権に対する反対の意見表明と見ざるをえないはずである。にもかかわらず、「改革を進めるために責任を果たしていかなければならない」といってやめない人は、どうみてもKYであると外部からは見える。
総理大臣は孤独であるといわれるし、おそらく内閣総理大臣たるもの誰でも、選挙で一回敗北したからといって続投したいものであろう。その意味で安倍総理が辞めたくないと思うことは人間の感情として不思議ではない(もちろん国のトップの判断として妥当かどうかは別である)。
しかし、ネット調査等によると、この結果を見て、過半の人々は辞めるべきと思っているようである。実際、以前ならば辞めていたのではないか。
安倍留任となった理由は与党内の力学の変化である。選挙当日に、森元総理、中川幹事長、青木参議院幹事長の三氏の懇談において、「政権継続は困難」との見解で一致したにもかかわらず、中川幹事長が安倍総理のところにいくと安倍総理から「続投」の意が示されたため、結局、安倍総理が続投にすることになった。
以前であれば、キングメーカー(たとえば田中角栄、竹下登といったところ)の意向で総理大臣の「辞任」が決まっていたことであろう。今回の安倍続投は今はそのようなキングメーカが完全に過去のものとなったことを示している(確かに森元総理はそのような地位になりたいように見えるのだが、実際には小泉総理時代からピエロを演じているにすぎない)。
そればかりでなく、対抗勢力、他の政治家等が明らかに弱くなっている。現状を外からみれば、むしろ安倍おろしを起こしたほうが得点が稼げるように思われる。実際、二、三日前の自民党代議士会では中谷元議員、小坂憲次議員が安倍総理の面前で辞任すべき旨発言したようであるし、地方組織等でも声もあがっているようだが、が、現時点では力のない少数派にすぎず、本格的な倒閣運動にいたるような勢いは、少なくとも報道を見る限り感じられない。。
結局、総理総裁がやるといえば辞めなくてよいということである。ここまでの居座りが可能となるほど、日本政治での総理・総裁というものの力が強くなったのだなあと感慨深い。日本の民間企業はトップの力が非常に強いといわれるが、政党もそのようになったかという印象である。
もちろん、これは、小選挙区制導入等の政治改革等の結果、派閥が弱体化し、さらにそれを十二分に活用した小泉政治のひとつの帰結である。「派閥政治の弊害」がこれまで長年言われてきたが、小泉政権下では弱体化が進み、ついには選挙で大敗を喫した党首をおろすことができないほどになったのだともいえる(もちろん、今の自民党にとっては派閥が弱体化したことのほうが弊害といわざるをえないだろうが)。
今回の安倍総理の続投は、直接には、総理の判断力の悪さ、よい助言者の欠如の結果ではある。総理としては、来年の日本がホストするG8サミットで、地球環境問題等で成果を挙げ、歴史に名を残したい、という強い欲望でもあるのだろうかとも思う。いずれにせよ、今回、安倍総理が辞めないことは、「政権にいるためには何でもありあり党」である自民党の性格が弱まってきていることを示すと同時に、仮に政権の座が危うくなろうとも自分が重要であるアジェンダをあくまで通そうとする、これまでにあまり見られなかった性格(これは現時点では政治の傾向というよりは安倍政権の性格といったほうがよいのかもしれないが)が示されているように思う。
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