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映画「選挙」

映画「選挙(Campaign)」を見てきた。川崎市議会議員補欠選挙(平成17年10月)の選挙戦を、一人の候補者(山内和彦氏)に密着して撮影したドキュメンタリー映画である。ベルリン映画祭で大きな反響があったことが報道され、前々から面白うそうだとおもっていたが、東京での上映(渋谷のシアター・イメージフォーラム)が今日(17日)が最終日だというのを昨日知り、あわてて見てきた。

2時間の映画だったが、面白くてずっと飽きなかった。自分は実際に選挙運動にタッチしたことなどこれっぽちもない人間だが、内容(実際の選挙活動)はほとんど予想に違わぬものであった。

冒頭は、夕方暗い中を一人(プラスもうひとり)だけで宮前平駅にポスターと旗をたててマイクで演説するというもの(おそらく公示前)。誰も立ち止まって聞かない。そもそも山内氏は自分の名前(と自民党と小泉総理と「改革」)しか言わない。

はじめのうちは山内氏一人だけが活動する姿だけが映し出されるが、選挙公示が近くなると、次第に組織による選挙戦の様相が強くなる。お決まりの、マイクを使った演説に加え、運動会、ゲートボール大会、支持団体(例:JA)回りなどが映しだされる。この際、地元の国会議員(やまぎわ大志郎衆議院議員)、県会議員(持田)、市会議員(浅野等)が、それこそつきっきりで山内候補をサポートしていたのが印象的。この選挙は補選であり、市会議員が18対18で拮抗する中での選挙戦であるので、これだけの手厚いサポートがあったのだが、それでも代議士がべったり付き添っていたのはある意味驚きであった。もちろん小選挙区制になり、地元との密着度が高まっているという事情はあるのだが。

この補選は、参議院選挙の補選(川口順子元外相が出ていた)、川崎市長選挙と同時に行われたこともあり、有名どころの国会議員も多数選挙応援のために現れる。小泉総理(当時。中選挙区制のときは神奈川二区ということで川崎は地元であった)を初め、荻原健司、橋本聖子、石原伸晃といった国会議員たちが山内氏の応援に出てくる。

それはともかく、選挙戦は選挙カー(「宣車」と呼んでいるようだ)での連呼と街頭での演説(といってもこれも名前の連呼)と握手が基本。とにかく奥さんまで選挙カーに乗せてマイクで名前を連呼しつづける。

こうした表に出てくる部分は、まあわれわれも普段見ているもの。やはりこのドキュメンタリー映画の見所は、表には出てこないような事務所でのリアルな会話や、家族(この場合奥さん)や友人とのリアルな会話などがそのまま映像に撮られていることであろう。

この映画を書いたネット記事等に書いてあることだが、
・この世界では、奥さんのことは、「妻(wife)」といわず、「家内(housewife)」といったほうがよいこと(この映画をみた外国人には日本の保守性、女性の地位の低さが印象付けられているだろう)
・(演説等で)自分の名前は3秒に一回出てくるようにすべきこと(3秒しか人は他人がいったことが頭に残らないから)。
・(仕事をしている)奥さんが(たぶん選挙事務所の人に)仕事をやめるように言われたこと(選挙は夫婦一体となってフルにやらないといけない、という趣旨だろうと思う)。これに対して奥さんがブチ切れていた。山内候補も「やめる必要はない」。
・あと、握手したあとにその人の顔を必ず見ろ、とか、時間は無駄にするなとか、素人の山内候補に対するプロたちのいろいろな「アドバイス」「知恵」も出てきた。30分早く会場にきたために、事務所の人から山内候補が怒られている場面もあった(本当はもっとたくさんあったのだろうが)。

ベルリン映画祭では、政策内容をほとんど語らない日本の選挙に外国人が驚き、という記事があったかと思う。また、こうした日本の選挙の実態に疑問を投げかける意見もネットで見つかる。しかし、現実問題として、名前を連呼したり、握手をしたり、諸団体を回ったりしたほうが選挙に強い(つまり、そうしたほうが票をとれる)というのが日本の選挙の現実である(少なくともこれまでは)なのだから、それに文句を言っても仕方ないであろう。

それから、事務所で働いていた中年の女性(確か自民党員)が、自分の建物を選挙事務所に貸しているようなのだが、場所が良いので、共産党から貸してくれといわれて貸したところ、あとで党本部を通じて怒られた、というエピソードが出てくる。また、同じく、連立与党である公明党の支持者から、公明党新聞(公明新聞のことだろう)をタダでよい(代金は自分が払う)のでとってくれ、というのもあった。
 あと、今回は補選かつ落下傘の新人候補ということもあり、今回限りということで同じ地盤の市会議員(およびその支持者)からも支援を受けていることも映されていた。選挙ではその時その時の貸し借りがあることが分かる。

こうした話が完全に実名でぽんぽんと出てくる。何をいいたいかというと、思っている以上に選挙活動というのはオープンなのだ、ということである。本当はもっと流せないようなことも話しているはずだし、他の某党ではこんなに開かれているわけは絶対にない、また、(これは憶測だが)地方の選挙は(それこそ実弾が飛び交うような世界で)これほどオープンに第三者に見せられないはずである。とはいえ、それでも、この映画に登場した人たちが、本当に生の発言、活動を見せ、映像に残すことを認めてくれたことは、大変にすばらしいことであると思う。もっとも、あとで本人たちは怒っているかもしれない。特に、山内氏が市会議員を続けなかったから一層その念はあるかもしれない。

とはいえ、結果として、山内候補は1000票差で当選する。(山内15000票強、民主党候補14000票強)。当選が決まったときの、事務所内の関係者のなんとも感動のない、あっさりした様子が逆に印象的であった。声になっていたわけではないが、「あ、とおったの」という感じ。所詮、市会議員の選挙、しかも落下傘候補の選挙なんて、そんなものなのかもしれないが・・・。候補者本人が事務所にやってきてお礼の挨拶をしているのを聞くと、本人と奥さんは心から感動していたように思う(もっとも、万歳三唱のときに、本人と奥さんまで万歳しちゃいけないのでは?TVなどで見る限りは深くお辞儀するんじゃないのかなあ、と思ったりして)。

いずれにせよ、見ておいて良かった映画である。素人である山内氏のキャラクターもあるのだろう、この映画を見た人には山内候補にはなんとなく親しみは持てるという人も多かったのではないだろうか(それと、映画を見れば「山内和彦」という名前はいやでも覚える)。もっとも、彼は今年の統一地方選挙の際には出馬せず、自動的に議員の職を失ったそうだ。

とはいえ、こうした選挙のやり方については、(現実にこれで票がとれてきたとはいえ)違和感を覚える人が多いのも確かだろう。山内候補は当選するが、この補選は例の郵政解散の直後の選挙であり、自民党小泉政権が圧倒的に強かった時期だから、1000票差の勝利は自民党にとっては苦戦だったといえるかもしれないう。新興住宅街が多い地域 であり、自民党を支える固定票が少ない、というのはあるだろうが、それにしても、自民党、あるいは映画で出てきた様々な従来的選挙手法の効果というのが弱 まっていることが示されていたのでは、と思った。もっとも、参院選の結果を知っているから余計そう思うのだろうが。

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